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球界初のプロ野球選手から公認会計士へ。現役時代も引退後も苦労と努力を重ねてきた元タイガース奥村武博さんインタビュー(前編)

イーキャリアNEXT FIELD 奥村武博さん

左)奥村 武博さん(元タイガース、現在は一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構代表理事、株式会社オフィス921スーパーバイザー・公認会計士)
右)野上 宣城(SBヒューマンキャピタル株式会社 社長室長)

1997年11月、ドラフトにて阪神タイガースに投手として入団。しかし、怪我による手術・リハビリに苦労し2001年に戦力外通告を受け引退。1年打撃投手を務めた後、苦節9年努力を重ね球界初の公認会計士の資格を取得。
現在は公認会計士に加え、アスリートデュアルキャリア推進機構の代表理事としてプロアスリートや学生を対象に、財務面からセカンドキャリア設計までサポートし活躍する奥村さんに、SBヒューマンキャピタルの野上がインタビューを実施した。2回に渡ってお届けする。

引退後の挫折から公認会計士という仕事に出会う。

野上まずは、現在のお仕事について教えていただけますか?

奥村現在、アスリートデュアルキャリア推進機構という会社を立ち上げ、自分の経験を生かし、アスリート自身が持っている力に気づいてもらえるようなキャリア支援をやっています。 野球やスポーツで培ったことが、実は社会に出た後も役立つということを、アスリートの方たち、スポーツ業界を取り巻く皆様にひろげられたらなと思い活動しています。

野上確かお名刺がもう一枚ございましたよね?

奥村そうですね。もう一方で、引退後に公認会計士の資格をとり、会計事務所にも務めながら、アスリートの方々の引退後に備えた資産運用や、事業を起こすときの会計面全般、バックオフィス全般をサポートするなどパラレルで働いています。

野上公認会計士になったプロ野球選手ってこれまでにいたんですか?

奥村いないですね。私が初めてです。

野上そうですよね!すごいですよね!

奥村誰も挑戦しようと思わなかったんじゃないですか(笑)

野上なぜセカンドキャリアとして公認会計士を選んだのでしょうか?

奥村21歳の時に引退をして、1年間打撃投手を務めた後、飲食業界に転職したんですが、自分の思い描いていたものではないのかもという不安や葛藤があり、そこで改めて、長い目でキャリアについて考え始めました。そのときはものすごく狭い範囲で物事を考えていましたし、知っていることも選択肢も少なかったので、視野を広げるために資格の本をもらったんです。世の中にこれだけ資格や職業があるんだから視野を広げて考えなさいと言われて。その本で初めて公認会計士という資格を目にして、興味をもって調べていくと、会計知識を生かしてビジネスの世界で活躍できる、ビジネス資格としては最高峰だということを知ったんです。この仕事は面白そうだなと直感的に思いました。
さらに記憶をたどると、高校時代に商業高校で簿記を学んでいたことを思い出し、これは私が目指すべき資格なんじゃないかなと思ったのが公認会計士を目指したきっかけです。

野上高校でも野球に専念してこられたんでしょうし、資格の種類を知る機会はなかなか無さそうですよね。

奥村税理士というのは耳にしたことはあったのですが。それぐらい、本当に世の中のことを知らない状態のまま、セカンドキャリアを選ぶという状態にあったんだと思いますね。今思うと。

引退後に目の当たりにする金銭感覚のズレに苦戦。

野上プロ野球選手から初の公認会計士ですし、目指すことを決めてから、不安や苦労はなかったんでしょうか?

奥村結果的に、合格するまでに9年かかっていますので、その間、本当に自分は合格できるかという不安はずっとありましたし、受験勉強だけでなく生活もあるので当面のお金が必要でした。なので、アルバイトをしながら受験勉強を始めましたね。勉強時間はとりたいけど、かといって生きていくためにアルバイトの時間は減らせない。とてもジレンマでした。

野上プロ野球の世界でやってきた方でも、勉強に専念できないくらい蓄えは尽きてくるものなのですか?

奥村プロ野球時代も決して年俸が高いわけではなかったですし、蓄えておこうという意識もなかったんです。やっぱりプロに入ったころは、そこから自分が稼いでいく未来像しか描いてないんですよね。特に若かったこともあり、日本で活躍をしてメジャーリーグに行き、その後は監督やコーチになるっていう、バラ色の野球人生を夢見ながらやっていましたので。
引退して仕事がなくなりお金が無くなっていくと、周りからはよく言われてましたけれど、実際には具体的にイメージできておらず、蓄えようという意識すらなかったですし、実際に蓄えられていませんでした。有名になる選手の方が一握りであるということは明らかにわかっていたんですが、その現実を直視していなかったのは、今思うとすごく浅はかだったなあと思いますね。

野上なるほど。でも、そういう選手の方も少なくなさそうですよね?

奥村実際そういう選手の方が多いんじゃないかなと思います。

野上それって変な話ですけど、プロの世界でそういうお金の使い方が身についてしまうみたいなこともあるんでしょうか?

奥村それもあると思います。野球界のある意味いい文化の一面として、基本的に後輩の面倒は先輩が見るので、先輩と食事に行ったりすると基本的には先輩が出してくれます。すごくいい文化である一方、後輩や年の若い選手の方が、自分の収入のキャパシティ以上のお金の使い方を覚えてしまうという悪い一面があるんではないかと、経験上思いますね。まあ僕だけかもしれないですけど(笑)

野上いやいやいやいや(笑)たしかにそういう話は他からも聞きますね。

奥村その感覚のズレ、金銭感覚の崩壊というのが大きい部分で、だから経済的に苦しくなるんだと思います。その金銭感覚を戻すのに、引退したあとすごく苦労しましたから。
僕みたいな、4年間の半分くらいを怪我してリハビリで生活していたぐらいの選手でもそうずれてくるとなると、いかに金銭感覚を選手のうちから養っておくかっていうのがすごく大事なことなんじゃないかなって思いますね。

苦節9年の経験からアスリートの持つ本質的能力に気付く

イーキャリアNEXT FIELD 奥村武博さん

野上資格を取ることに挑んだ9年ってとても長いと思いますが、なぜぶらさずやり切れたのでしょうか?

奥村初めから9年かかるよって言われていると絶対にやらなかったと思うんですが、1年1年の繰り返しが9年になっていたっていうショートスパンの繰り返しだったんですよね。9年間よりもっと長い20年近く野球をやってきているので、コツコツ前に進む能力がスポーツ選手は野球に限らず身についているんだと思います。「合格しないとその先がない」と自分にプレッシャーをかけてモチベーションを保っていましたね。あと、野球と勉強が似ていることに気付き始めて、合格する直前の2年ぐらいは勉強するのが楽しい時間になり、それが合格につながったのかなって思います。

野上そういう継続力や、目指した姿を地道に追いかける能力は高そうですよね、アスリートの方は。

奥村意識せずとも、普段の練習や試合でそういうプロセスを自然に踏んでいるんです。例えば、ピッチャーが試合でウイニングショットが足りないから最後追い込んでも打ち取れなかった、という課題が見つかったとします。そのウイニングショットを会得するために、例えばキャンプからまずはキャッチボールで握りを試して、次はブルペンに入ってピッチング練習で感覚を確かめ、そのうちに力を入れて本気で投げ込む。そしてオープン戦で試してシーズンで使えるようにするというような段階を踏みます。これは、ウイニングショットを手に入れるというゴールを設定し、明確なスケジュールを組み実行するPDCAサイクルと同じプロセスと言えますよね。普段からスポーツ選手は自然にやっていることだと思うんです。
これは試験に合格するというゴールに対して、模試を受け足らないところを自分で見つけて、身につけていくことと一緒。知識が足りないんだったら覚えるし、会計士の試験は計算問題もあるので、計算を解くのが遅いのであれば計算スピードを上げるトレーニングをする。それをまた模試で試して、本試験に臨んで、合格を勝ち取る。仕事でも一緒ですよね。
スポーツ選手は監督・コーチからアドバイスされることもあると思いますが、自分でその課題を見つけているはずなんです。よりパフォーマンスを高めたり、ライバル選手に勝つために自分が伸ばさなければいけない部分を、自分で見つけて、それをどう改善して行くか、どう取り組んでいくかということを必ず考えているはずです。この課題発見力や課題解決力はスポーツ選手のすごく強みであり、ものすごく能力の高い部分なんだと思ってますね。そこに自分の経験上気づいたので、それが会計士につながり、今のアスリートデュアルキャリア推進機構の仕事にもつながってきているということです。

Vol.7に続く