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2008/04/11

取締役常務執行役員|杉原章郎氏 楽天株式会社

日本のインターネット企業 変革の旗手たち|注目記事

ITmedia エンタープライズ

課題設定力と渇望感がビジネス成長を支える

昨年創立10周年を迎え、楽天はさらに事業領域を拡大させる。ネットにビジネスの礎を築いたパイオニアの、そのビジネス創出の源泉は常に手の届かないところに目標を定めようとする企業文化だった。

楽天が1997年に設立されて、昨年で10周年を迎えた。同社は創業以来EC事業を中核に、ポータル、トラベル、金融、国際事業などそのフィールドを年々拡大し、インターネット業界のパイオニアとして、常に新しいサービスにオリジナリティーを加えて挑戦してきた。現在では、グループ会員数が4000 万人を突破、グループ流通総額も年換算すると1兆円超と、この10年でその創業当時誰もが予想しなかった成長を遂げている。同社取締役常務執行役員 CPO開発・編成統括本部長兼プロデュース本部長の杉原章郎氏にその成長の原動力について聞いた。

【写真】杉原章郎氏
楽天取締役常務執行役員の杉原章郎氏

ITmedia ネットでビジネスを展開するきっかけは何だったのでしょうか。

杉原 1997年に楽天はスタートしていますが、1996年ごろから当時コンサルティング業を行っていた三木谷(社長)を中心として、ネットビジネスの可能性を探り始めました。当時は企業のホームページの作成請負やLANにインターネット接続を加えた通信環境の配備など、BtoBのビジネスが主でした。しかしBtoBというのは、システムが完成して納品してしまうとそこでおしまい。その先のソリューションビジネスが続かないケースが多かったのです。

そこでもっとコンシューマー寄りの、BtoCのビジネスを、ということでECなどを視野に入れました。結果的に、当時はあまり活気がなかったインターネットのショッピングモールを中核に「何かソリューションを提供できると面白いのでは?」と考えて『楽天市場』を興したわけです。

ビジネス領域をインターネットに絞ったのは、インターネットを使った何かがしたいという気持ちがわれわれの中に強くあったこともありますが、やはりインターネットが、時間や場所の人手の制約を超える可能性を秘めているという確信が当時からあったからだと思います。

ITmedia 楽天は現在、総合インターネットサービス企業として、ECを中心にポータル、金融、リサーチなど、事業領域がかなり広範囲にわたっていますが、改めて楽天の企業としての強みはどこにあるとお考えですか。

杉原 楽天創業以来、一貫して掲げている、Get things done、Professionalismの徹底、顧客満足度の最大化、スピードなどをうたった「成功の5つのコンセプト」があります。このコンセプトを突き詰めると、世界一のインタネットサービス企業になるのです。

ショッピングモールからスタートしたビジネスも、EC、トラベル、金融と領域を広げるとともに、そのステージが大きく変化していきました。最近では、人材系の事業など人が一生を決める場面にかかわるところまですそ野が広がっています。このようにビジネスが多様化してもなお変わらないのがこのコンセプトです。これにのっとって仕事をすれば、どのようなビジネスシーンでも、最良のサービスが提供できるはずだと考えています。このような姿勢が魅力的な人材、育成を可能にし、楽天の強みにもなっていると感じています。

技術情報のオープン化を進める

ITmedia 10周年を期に、テクノロジー面でも何か新しい動きがありますか。

杉原 この10周年を期に、楽天の技術情報をオープン化する動きがあります。決してクローズにしていたわけではなく、公開する価値のある/ないを含めて、あまり積極的に自分たちの技術をアピールしてこなかったというのが実情です。楽天が採用する技術というのは、多くの方に利用していただくのを前提に開発されるため、非常に熟した技術です。ある程度、汎用性が見込めるようになった時点で一気に実用化、サービスへと推移してきました。

外部の方に楽天を支えるシステムを見ていただき、仕様の策定・決定から開発のコントロール、リリース後の運用に至るまですべて社内で行っているというお話をすると、非常に驚かれます。このような内情を外部にはなかなか知ってもらう機会がなかったという反省も含めて、楽天が提供する技術を応用し、新たなソリューションを展開する動きを活性化するよう、積極的な技術情報のオープン化を検討しています。特に、Rubyを皮切りにご協力いただいている松本行弘(まつもとゆきひろ)氏をはじめ、楽天フェローの方々にもこうした技術情報は積極的に開示すべきだとのご指摘を受けています。

トラフィックが多様化しても魅力的なサイト作りが収益機会を増やす

ITmedia 最近では、検索エンジンやCGM(Consumer Generated Media)を経由したユーザートラフィックの増加という傾向が見られますが、この現象はWebビジネスにどのような影響を与えているとお考えですか?

杉原 企画、広告のみのポータルを提供するようなビジネスモデルはもう成立しなくなったということでしょう。テレビとは異なり、既得権益的にメインのチャンネルを持っているところが入り口、という時代ではありません。個人サイトでもそれなりのトラフィックを稼げるので、いろいろなことをオープンにした方が、かえってトラフィックが集まりやすいという現象が生まれています。例えばショッピングでは、ショップに訪れるユーザーの3割は検索エンジンやCGM経由に置き換わっています。われわれからすると完全に無視できない状態です。今後、集客面においてより競争が激化するのは間違いありません。

ここで問題となるのが、検索エンジンやCGMだけに集客を任せてよいのかということです。こうした現象は、楽天自身あるいは出店店舗様にとって、必ずしも経済合理性があるわけではありません。彼らの入り口よりも、楽天の入り口の方をブックマークに登録したいと思える魅力的なサイト作りが必要となってきます。

【写真】杉原章郎氏
「サービスのすそ野はもっと広げたい」と杉原氏

その一方で、トラフィックを作り出すことだけを収益源とするだけではなく、顧客が購入に至るまでの行動や、購入後のフォローをも含めた、収益機会を作り出す技術やサービスの投下にも目を向けています。今やインターネットは、かかわらないで過ごす日はないというくらい生活の中に入り込んでいます。それゆえ、楽天が提供するサービスも、もっとすそ野を広げなくてはいけないと考えています。

ITmedia ネットサービスを展開する企業としては、新規サービスの創出ということが必須となってくると思います。そのあたりの取り組みについてお聞かせください。

杉原 まずグループ全体で、「グロース・マネジメント・プログラム(GMP)」という取り組みを行っています。事業の中には大きく分けて、現時点で収益力のあるもの、成長段階にあるもの、これから発生するインキュベーション的なものが考えられます。そこで、新しいサービスや技術への投資について、グループ全体で包括的に投資バジェットを持てるように考えています。自サイトに再投資するだけでなく、全体から大きなバジェットを取り出しておいて、それらを新規事業に投資する動きを始めています。

また、技術研究所を設置し、多くのテーマを設定して投資を行っています。基礎技術ほど先見性のあるものではありませんが、ECやインターネットのライフデザインにかかわりそうなテーマが主となっています。社内には現在、業務委託まで含めると1000人くらいの開発メンバーがいます。

ITmedia ビジネス構想を表す1つのキーワードに「楽天経済圏」がありますが、これが狙いとするものは?

杉原 楽天市場、楽天トラベル、楽天証券など、顧客に単体のサイトをより利用していただくのはもちろんですが、これら共通の会員システムを提供し、会員行動情報を蓄積したデータベースを構築しています。顧客がグループ内のサイトを横断的に使用すればするほど、その人にとって利便性が高まり、経済合理性の高いサービスが提供されるというサイクルを目指しています。これを楽天エコシステム(循環型経済圏)と呼んでいます。今後はこのエコシステム上に、多様な金融決済手段や物流サービスなども提供して、付加価値を高めていきます。

求められるのは「成長欲」そして「課題設定力」

ITmedia 企業として成長していく上で、楽天が求める人材像を教えてください。

杉原 楽天のスタッフには課題の設定力が求められます。例えば、3年後の自分を想定して、その時点の自分には何が求められているか。その3年後の自分になるために、今の自分には何が足りないのか。この不足を3年間で補うことが課題であるなら、何をやらなくてはいけないのか。そうしたことがきちんと洗い出せる力だと思います。もちろん、洗い出しただけでは駄目で、これをクリアする取り組みを自分で設定してそれをこなしていくポジティブさが必要です。

サービス開発の本部から始めているのですが、こうした課題設定力を高めるための支援として、セッションと呼ばれる研修を定期的に開催しています。ここでは、3~5年後の自分の希望や夢をまとめ、4人ずつのチームで発表し合い、他者を評価したり他者の評価を受けたりということを実践しています。こうしたセッションを通じて、成長欲や課題設定力が喚起されます。

もう1つ、成長欲に関連するかもしれませんが、「渇望感」があると思います。インターネットビジネスは、空間的な奥行きが無限であるということもありますが、どんなに小さく見ようとしても渇望感で満たされてしまいます。この渇望感がないと、新しいビジネスの創出もあり得ません。企業自体にも、常にこれでよいというゴールはないと思っています。目標を達成しそうになると、さらにハードルを上げる。届かないところに目標を設定する。これもある種の課題設定力なのでしょうが、渇望感を内外の圧力を利用して喚起し、それをエネルギーに変える―そのような文化が、楽天には確かにあります。

ITmedia マネジメントの立場として今後、どのような経営を目指していこうとお考えですか。

杉原 毎週月曜日朝に行う全社情報共有会「朝会」の実施や、月末に開発部隊が実施する「締め会」などを通じて社員全員に経営状態やこれから進む方向をできるだけオープンにし、今後どのようなチャンスが発生し得るのかを知ってもらうよう心がけています。もちろん、そのチャンスに対して手を挙げれば誰もがアサインされるわけではありませんが、できるだけ多くのメンバーにチャンスが巡るようにと考えています。だからこそメンバーには、自分で成長する意欲、つまり成長欲というエネルギーを求めています。この個々人の成長欲がサービスの向上につながり、ひいては会社の収益に貢献をもたらすことになります。

本記事は、2008年1月のITmediaエンタープライズに掲載されたものを転載しております。