2008/04/05
代表取締役社長|青野慶久氏 サイボウズ株式会社

「和」の文化をグループウェアで世界に届ける
四国の松山で仲間3人が創業した企業が、10年目に掲げる目標は、ユーザーが何も意識せずとも、導入しただけでチームワークが生まれてしまうグループウェアを作ることであった。

四国の松山で仲間3人が創業した企業が、10年目に掲げる目標は、売上げでも利益でもない偉大な価値―ユーザーが何も意識せずとも、導入しただけでチームワークが生まれてしまうグループウェアを作ること―であった。自らを素人社長と控えめに話すサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏に話を聞いた。
ITmedia 青野さんがサイボウズの代表取締役社長に就任されたのが、2005年4月のことでした。この2年半ほどの間を振り返ってみていかがですか。
青野 一言でいえば、素人社長が後悔しながら突き進んできた密度の濃い2年半でした。 これまで、12社のM&Aなども手掛けてきました。わたしとしては、「自分の立てた戦略がうまく行くだろう」という思いがあるわけですが、現実には常にうまくいくわけではありませんでした。
ITmedia それは何が問題だったのでしょう。
青野 一番足りなかったのは戦略策定でも人心掌握でもなく、「真剣さ」ではないでしょうか。
本当にサイボウズを世界で一番の企業にしたいのかと問われた時に、それまでは「頑張ります」だったんですね。しかし、そんなレベルではなく、「何があっても達成する」という「覚悟」が欠けていたように思います。もちろん手を抜いていたわけではありませんが、「頑張る」と「命がけ」というのは言葉の印象以上にレベルの違う次元です。草野球チームだったサイボウズがプロ野球、さらにメジャーリーグを目指すためには、断固たる決意や組織の規律が必要なのです。そんな意識をわたし自身も組織も持つようになってきました。
日本は圧勝して当然、和の文化を世界へ
ITmedia 日経コンピュータの顧客満足度調査グループウェア部門では7回連続で1位を獲得しており、ブランドとしても十分に確立したような印象を受けます。そうした現状からすると、気負いすぎなのではと思うのですが。
青野 サイボウズの企業理念として「世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」というものがあります。世界に進出することはサイボウズのDNAからすると必然であり、日本は圧勝して当然という思いがあります。
しかしながら、この10年を振り返ってみたときに、われわれは世界に対して現実的には何もできていないわけです。方や、検索の企業だと思っていたGoogleが今やGoogleグループのようなグループウェアを提供する時代になり、そこに危機感を感じるわけです。
サイボウズが日本でここまで成長したのは、日本の「和の文化」、つまり、チームワークを大事にする文化において、グループウェアがそれを体現するものだったことも一因ではないかと思います。一方で、海外のグループウェアというと、きわめて個人主義的な視点で作られています。ここで、グローバル化や個人主義といった考えの下に妥協することなく、グループウェア事業を通してチームワークの文化を海外へと広めたいのです。
ITmedia グループウェアの市場性はどうお考えですか?
青野 われわれの製品は現在約260万ライセンス出荷されていますが、ビジネスユーザー全体からすると、これはまだ10%程度にすぎません。今後、グループウェアがメールのように大衆化するには、グループウェアの必要性が分からない人でももっと簡単、もっと安全に使えるようなものにしていくことが必要となるでしょう。
サイボウズがロールモデルの1つとしている任天堂も、その歴史の中ではさまざまな事業の多角化を図った時期もあります。しかし、帰着したのは、やはり「玩具」という視点でした。現在、老若男女を問わずWiiやNitendo DSが楽しんでいることからも分かるように、ゲームの市場に絞ったとしても成長が止まることはないわけです。グループウェアも同様です。1人が所属するグループは必ずしも1つではないことを考えても、既存のグループウェアにはまだまだ進化の余地があります。色気を出してよく分からない事業に手を出すのではなく、グループウェアをもっと深掘りした方がいい企業になると考えています。
米国企業のまねではない「長期視点」の企業に

- 「わたしが社長を退いた後の企業に対して何ができるのかを考えたい」と青野氏
ITmedia では、GoogleやMicrosoftに勝つために、どういった戦略を考えているのでしょうか。
青野 われわれが今目指しているのは、トヨタ自動車や松下電器産業のような永続的に成長していけるメーカーになることです。日本のIT企業というと、どちらかといえば米国のネットサービスを後追いするようなものも少なくないですが、彼らと同じ戦略やマネジメント手法が必要だと思っていましたが、自動車産業におけるトヨタ自動車の今のポジションを見るに、必ずしもそれが正解ではないようです。
「長期視点」というのが一番ふさわしい言葉であると思いますが、短期視点ではなく、じっくりと腰を据えて「いいソフトウェアをつくる」、そしてそれを広めていく。この2つをコツコツと積み重ねていくことで生き残っていけると考えます。わたしが社長の間にどれだけこの企業を変えられるか、ということではないのです。わたしが社長を退いた後の企業に対して、今わたしに何ができるのか、ということなのです。
また、よくIT業界はドックイヤーと呼ばれ、IT企業にはスピードが必要である、という考えがあります。もちろん社会が変化を続けている以上、企業も変化し続けていく必要がありますが、そのスピードが合っていること、つまりは時代に合わせて変化していける企業であることが重要だと思います。
会社は「集団」、そこに集う「分かりません」と言える人
ITmedia 青野さんにとって、会社とはどういった定義なのでしょう。
青野 会社は「集団」であると考えています。つまり、同じビジョンを共有する人の集まりです。会社が人の集まりであるということは、そもそも「会社は誰のものか」という議論が立脚しません。人は人に隷属するわけではありませんので。
ITmedia つまりは集団を構成する「人」こそが重要であるということですね。その考えに至ってから、採用方針などに変化が出てきたのでしょうか。
青野 従来はベンチャー気質も強く、即戦力となる中途採用を中心に行っていましたが、長期の成長を考えるなら、会社を担う次の世代を育てるという考えが必要となります。昨年は19人の新卒を採用し、この4月に入社してきました。もちろん即戦力にはなり得ませんが、これは長期の成長を考える上では必要なことです。
ITmedia サイボウズは今、どういった人材を欲していますか。
青野 サイボウズでは採用面接で、物事の真理を問うような質問をすることがあります。優秀な人はそうした質問に対して見事な答えを返してきますが、必ずしもそうした人だけで会社を作りたいとも思っていません。むしろ、そうした質問に対して素直に「分かりません」といえる方と一緒に仕事をしたいと思います。分からないときに分からないといえることは1つの才能で、素直にこうべを垂れることができる人はコツコツと伸びていくと考えるからです。
ITmedia 近い将来、導入しただけでチームワークが生まれてしまうようなグループウェアをサイボウズが出してくれることを期待したいところです。
青野 おっしゃるとおりですね。トヨタ自動車の現社長である渡辺捷昭さんは、「どんな運転の仕方をしても故障しない車を作れ」といったビジョンを掲げておられます。自動車は運転次第では危険なものにもなりますが、メーカーからすればそこはドライバーの問題であると考えたくなるものです。しかしそれすらも内包しようとする。ここは大いに共感するところです。
ユーザーが何も意識せずとも、導入しただけでチームワークが生まれてしまうグループウェアを作ること、言い換えれば、「世界にチームワークをもたらすのはサイボウズである」という使命感を持ち、グループウェアで実現できることがある限り、グループウェアをこれからも深掘りしていきます。

- 4月には開発拠点を愛媛県松山市に置く予定。「長期でいい物を作り上げていくためには山にこもれ」と笑う青野氏
本記事は、2008年1月のITmediaエンタープライズに掲載されたものを転載しております。