2008/04/04
代表取締役社長兼グループCEO|堀主知ロバート氏 株式会社サイバード

モバイルユーザーのそばにいる存在であり続けるための挑戦
モバイルインターネットのコンテンツサービスで代表的な企業となったサイバードホールディングス。同社は、コンテンツビジネスに加えて、次なるビジネスモデルを確立すべく、新たなスタートを切ろうとしている。その原動力となっているのは、「ユーザーの立場で考える」という創業以来の強い思いである。
サイバードホールティングスは2007年10月、新規事業への集中を理由に経営陣が自社を買収するMBOを発表した。モバイルコンテンツの代表的な存在である同社は、次なるビジネスモデルを確立すべく、本格的なスタートを切ろうとしている。同社がこれまで成長続けてきた原動力となっているのは、創業以来持ち続けている「ユーザーの立場で考える」というマインドだ。それでは、次なるビジョンをどのように描いているのか。堀主知ロバート代表取締役社長兼グループCEOに聞いた。

- 堀主知ロバート代表取締役社長兼グループCEO
ITmedia モバイルビジネスを手掛けられた経緯からお話しください。
堀 そもそも、モバイルに着目するきっかけになったのはコンピュータとの出会いでした。特に、私がコンピュータに対して望んだのは、「知らない情報を教えてくれる機械」という存在です。ですから、インターネットが登場し、キーワードを入力するだけで知りたい情報を引き出せた瞬間は、とても嬉しかったですね。世の中に埋もれている情報を検索だけで引き出せるインターネットの普及は、まるで産業革命のように感じられました。
創業当初はPCに着目していたのですが、PCよりもパーソナルな存在の携帯電話へ目を向けたのは、携帯電話が一人一台となる時代がいずれ到来するだろうし、PCで既に始まっていたコンテンツや決済のようなサービスが携帯電話の世界にも入ってくるだろうと考えたからです。同じ時期に同じようなことを考えていた通信事業者の人たちもいて、意見交換をしながら、私たちのテリトリーを確立すべく携帯電話へ軸足を移しました。
ITmedia モバイルビジネスにオープン化の波が到来しています。
堀 もう5年ほど前からいわれていますが、目に見えない動きでもあり、多くのモバイル事業者が手探りを続けていると思います。モバイル業界では長らく業界内で激しい競争を続けてきましたが、オープン化によって、ユーザーに課金するビジネスモデルだけに頼らないPC インターネットの企業がモバイル業界へ本格的に参入を始めました。彼らは、モバイル系企業のように同業他社と激しく戦うというよりも、お互いのビジネスの良いところを認め合いながら上手にやっている印象がありますね。
ITmedia モバイルビジネスに対する業界の考え方が変わってきたということでしょうか。
堀 従来は、「インターネット=携帯電話」という意識が強かったのだと思いますが、オープン化が進みつつある今は、携帯電話以外にもいろいろなものがインターネットにつながっているという意識を持ちつつあるように感じます。今後は、携帯電話を中心にしつつ、インターネットの広い世界を強く意識することが、ますます加速していくでしょう。
MBOの理由
ITmedia MBOを決断されたのは業界の変化が理由ですか。
堀 MBOを選んだのは、業界の変化ではなく、自分たちがすべきことが変わってきたというのが一番の理由です。モバイルコンテンツは私たちの強みですが、それだけでは成長の余地が次第に限られてくるだろうという危機感がありました。

- モバイルインターネットの新しい形に集中すべく、MBOを選んだと話す堀氏
サイバードを立ち上げた当時、将来は携帯電話がインターネットにつながるあらゆるもののインタフェースになると考えていました。
例えば、必要な情報を登録しておくプラットフォームのような仕組みがあれば、ユーザーはさまざまなサービスをスムーズに利用できるようになります。そこでサイバードは、一人ひとりの携帯電話ユーザーの「自分専用のプラットフォーム」を提供できる存在になることを目標にしてきました。
この目標に向けた取り組みは、2年ぐらい前から始めています。そして、具体的な方向性がだいぶ見えてきたので、いよいよ大規模な投資を行うべきタイミングになりました。
しかし、年間数十億円程度の利益の大半を投じる必要があり、今の企業規模では難しい。もし投資をすれば、利益を還元できず株主の方々に迷惑をかけることが明らかだったので、それなら私たち経営陣がリスクを取るべきだろうと思いました。投資のタイミングを数年先に伸ばす考え方もありましたが、変化の激しいモバイル市場では現実的な方法とは思えませんでした。
私たちは、創業から株式上場、今回のMBOに至るまで、自分たちが挑戦したいこと、あるべき姿を実現するための環境作りを自分たちの手で行ってきました。コンテンツ事業に全力で取り組み、利益を出して自分たちの強みにしてきたからこそ、新しいことに挑戦できるようになったと思います。
インタラクティブなメディア
ITmedia 業界のビジネスモデルが変わろうとしている中で、どのような成長路線を描いていますか。
堀 「メディア」のような存在になりたいと考えています。正しくは「プラットフォーム」という表現が適切かもしれません。具体的には雑誌のようなイメージです。例えば、若い女性向けのファッション誌があるとします。カテゴリーはファッションかもしれませんが、実際にはファッションに限らず、若い女性読者が興味を持つさまざまな情報が載っています。コンテンツを起点にするのではなく、ターゲットとなるユーザーに対して多種多様な情報を届けるメディアを作りたいですね。

- 経営に全力投球の堀氏。「体力に自信はあるが、心が折れなければ大丈夫」との一言に魅力を感じた
「メディア」という言葉は、一般的には「読者に何か提案する」という意味合いで捉えられることが多いのですが、私たちが考える21世紀型のメディアは、インタラクティブ性を伴ったITサービスという要素を持つものです。これまでのメディアは、「こうしたらどうですか?」という提案型ですが、私たちの考えるメディアは、「あなたはどうしたいのですか?」とユーザーに働きかけ、健康志向のユーザー向けサービスだとすれば、食べる予定のものを入力すると、「それは食べないほうが良いですよ」とアドバイスをするようなイメージです。
そのようなサービスを組み合わせたメディアは、ユーザーに対して大きな影響力を与える存在になるでしょう。ユーザーのセグメントが明確なので、広告主にとっても魅力的な存在になります。
ITmedia Yahoo!やGoogleがモバイルポータルとしての存在感を強めています。
堀 彼らは検索を切り口にいろいろなサービスを提供できるので、うらやましく感じることもありますが、労力や時間、コストを考えると同じことはできません。それよりは、きちんとセグメントを固めて、その人たちが求めるものを用意していきたいですね。
モバイル広告は、この1年ほどを見ても急激な成長を遂げています。その意味では、今回のMBOは新規事業のためにというよりも、すでに始まっている事業を加速させるためにアクセルを踏むといったものです。本格的な取り組みは次年度以降になりますが、毎年2つ程度のメディアを立ち上げていきたいと考えています。
ITmedia 最後に、これからインターネット業界へ挑戦する方に向けたメッセージをお願いします。
堀 インターネット業界に限らないのですが、「気付き」を大事にしてほしいですね。例えば、企業同士の提携を報じた新聞記事を見て、「そうなんだ」と思うだけか、「これならうち(当社)でも新しいことができる」と思い付くかどうかです。
「気付き」というのは、脳にインプットされたさまざまな情報が関連付けられる状態のことを指すと聞いたことがあります。ですので、日々たくさんの情報に触れ、それを「気付き」としてアウトプットできるように努力することが大切です。それを心がけていれば、どんなに困難な場面に遭遇しても乗り切れるようになれると思います。
本記事は、2008年1月のITmediaエンタープライズに掲載されたものを転載しております。