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2008/04/02

代表取締役社長|田中実氏 株式会社カカクコム

日本のインターネット企業 変革の旗手たち|注目記事

ITmedia エンタープライズ

「やるリスク」より「やらざるリスク」を意識した組織づくり

「口コミ=CGM」という図式で考えれば間違いなくWeb2.0企業といえるカカクコム。だが、そうした言葉でくくられることは望まないと語る田中社長の真意とは――。

1997年、個人サイトから第一歩を踏み出した「価格.com」は今や、月間利用者1081万人、掲載商品数約1320万点(2007年10月時点)のデータを蓄積する一大情報サイトへと成長した。扱う分野も保険、マンション、グルメ、旅行など多岐にわたり、もはや「PCや情報家電の価格比較サイト」の枠に収まらない。当初より口コミによるユーザー視点に立った情報発信をコンテンツ方針の根幹に据える同サイトは、CGM(Consumer Generated Media)の最右翼メディアといえる。「ユーザー視点に立って仕事をするというのは格好のいいテーゼだが、いざ実践するのは難しいもの」と語るカカクコム田中実代表取締役社長に話を聞いた。

【写真】田中実氏
田中実カカクコム代表取締役社長

ITmedia カカクコムの企業としての強みは何でしょうか。Web2.0企業の代表とも例えられるほどに成長した原動力はどこにあるとお考えですか。

田中 われわれは創業10年で社長が3代目というネット系企業でも風変わりな生い立ちがありますが、ユーザー視点で、顧客に役立つ情報を発信することを企業理念として創業者が打ち出し、今まで守り続けてきたことが大きいと思います。目先の広告売り上げにとらわれず、ユーザーの厳しい批評・批判を含めた口コミを載せ続けることで、短期的にはメーカー企業との良好な関係を築くのが大変でしたが、中長期的には良い効果を会社全体にもたらしつつあります。

ITmedia 信念を曲げなかったことが会社の成長にとってプラスの方向に働いたと?

田中 創業時に近い時期のメンバーが何人か残っていますし、現場のオペレーションを任せられるしっかりとした人材がたくさんいてくれる点もあります。もう1つ、財務諸表以外にも会社をアピールできる点があります。カカクコムには連結ベースで200人近い社員がいますが、昨年1年間で退社した社員は4人しかいません。電子商取引系やメディア系のネット企業などの同業他社と比べても著しく退職率が低い会社だと言えます。

先代社長も含め、わたしが金融出身の社長でありネットのリテラシーが高くないことの裏返しで、「こうしろ、ああしろ」とディレクションしたり、カリスマ性をもって社員に「この方向に突っ走れ」と指示したりするよりは、現場の社員にやりたいことのアイデアをいろいろ出してもらうようにしています。こういう業界なので、やるリスクよりもやらないことによるリスクを重んじて、「一度やってみよう」と。駄目なら軌道修正したりやめたりすればいいわけです。

そうして"やらざるリスク"を意識して経営に取り組んできたので、社員からすれば何かやらせてくれる、よく企画が通る組織になっているのではないでしょうか。

「Web2.0」には違和感を感じる

ITmedia 口コミはWeb2.0そのものといえるかもしれません。ただし田中社長は、メディアなどが書き立てるWeb2.0の定義が、それが本来意味するところを狭めているのではないかとの危機感をお持ちです。

田中 われわれは、Web2.0やCGMなどという言葉が世に出てくる前の創業時から、口コミの機能をユーザーに提供してきました。正直なところ、そうした言葉でくくられてしまうことに若干違和感を感じています。Web2.0企業に例えられると、その先の3.0ができたときに、時代に取り残されているような負のイメージが付いてしまうわけです。したがって、これらの言葉と会社をひも付けるような戦略はむしろ避けたいと考えています。

最初の質問にもかかわりますが、口コミを軸にした価格.comが、収益性を担保するのがきわめて難しい中で利益を生み出してこられた秘けつは、ユーザーが入力した情報を単に垂れ流し的に発信するのではなく、利用しやすいようにいったんデータを整理・加工するという、いわば「泥臭い」ことをいとわず、ずっと続けてきたところにあるのではないでしょうか。例えば携帯電話の場合、新発売のモデルが出ると、重さや付属カメラの画素数、充電池の持ち時間といったデータを公式ホームページやリリース資料を基に社員がすべて手入力していきます。その商品・サービスのデータベース上で、小売店の値段、メーカーの広告、ユーザーの口コミやレビューがリンクしているのです。

10人程度のチームが朝から晩までの作業を通して毎月5000~6000点のPC、デジタルカメラ、家電について製品情報を入力しています。非常に面倒な作業ですが、値段だけではなく重さや電池の持ち時間といった、いろいろな切り口で横断的に比べられるように整理しているからこそ、ほかの価格比較サイトよりも使いやすく、おもしろいサイトだとユーザーに言ってもらえるのだと思います。

ITmedia 地道な作業の積み重ねが評価につながっているわけですね。

田中 このことは、企業採用時の人事評価にもつながっています。「ひたすらこれをしたい」という職人気質の人がいる一方で、企画開発や営業などの仕事を目指す人もいるので、評価の軸を完全に2つに分けてしまいます。そして、マイスター的な人と昇級や上の役職を狙う標準的な上昇志向の人、それぞれに沿う評価や給与体系の軸をバランスさせないといけません。マネジメント志向な人ばかりでデータベースを入力する人がいないと企業の価値は棄損してしまうし、かといって、オペレーター志向の人ばかりでも新しい事業分野を開拓できない。そこの配分に気を配りながら人を育てていこうと考えています。

ITmedia 価格.com開設当初は玄人志向の強いコンテンツが中心でしたが、最近では製品に詳しくないライト層の人たちに向けた情報も増えています。

田中 とがった記事や情報を扱っているサイトが安易に一般層を呼び込もうとすると、逆に"プロの人"が逃げていってしまいます。彼らは一緒に有用なコンテンツを作成してくださる「パートナー」なので敬意を払いながら、初心者層も取り込んでいくことが求められます。そこで、購入した人の評判・評価を、レスが付かない形で載せるレビュー情報を充実させることで、製品に詳しくない人でも安心して利用できるようにしました。

また、PCや家電製品のような耐久消費財だけを扱っていると、サイトの利用頻度がなかなか上がりません。より広いユーザーが利用できるように、お酒、お米、書籍、CDといったより単価の低い、日常で頻繁に買うような商品も扱っています。

ITmedia さまざまなジャンルの商品を扱っていることを認知してもらうために、APIも公開しているそうですね。

田中 これには大きく2つの目的があります。1つは、ユーザーが価格.comのサービスにサイトの外部でも触れられるようにして、将来的にサイトに訪れてもらう誘因とするためです。もう1つは、われわれがオープンな企業としていろいろな企業と協業していく姿勢を外に出していけば、企業のブランドイメージを上げることができます。それによって同時に、採用が難しくなってきている優秀なエンジニアの方々を将来採用したいという意向もあります。

集客力と緩やかな収益構造

ITmedia 先ほどやらざるリスクというお話がありましたが、IT投資にはシビアな目を向けていますね。これに関して方針はありますか。

【写真】田中実氏
週末は自転車で数十キロ走ったり量販店ウォッチをするという田中社長

田中 カカクコムでは、情報を見やすく使いやすいように整理することに会社のリソースを集中した結果として、IT投資を抑えながら企業規模を拡大できたのだと考えています。

例えば、電子商取引に特化している企業は当然、決済や物流、システムインフラなどに二重、三重に投資をしなければユーザビリティを上げられない。カカクコムはそれよりもう1つ上の、横断的な情報検索を行う「薄いレイヤ」で勝負しているのです。実際われわれは決済システムを持っていないので、何がどのくらい売れているのかは把握していません。小売店への課金体系も、クリック課金(CPC)という、購買ではなく送客の対価であり、多くのユーザーに情報を見てもらい、"薄く"課金することに徹しています。その方がユーザーに喜ばれ、結果として企業の価値が上がるわけなので、深掘りするよりは扱う領域を広げる横展開にリソースを割いています。

また、小売店の出店料を他社よりもかなり低く設定しています。これは、より安い値段を求めるユーザーを集めるために必要な措置です。少し利益が出せればいいくらいの覚悟で、出店料には収益を求めず、安値で売る体力をショップさんに付けてもらう。この点には非常に気を遣っています。

求めるのは本音の交流ができるコミュニケーション力

ITmedia 企業として求める人材像を教えてください。

田中 まず「自分を知っている人」です。会社に合わせたキャリアや能力を持っているということよりも、欠点や限界を含めて素直に己を出せる人ですね。カカクコムの仕事はコミュニケーション能力が非常に大事です。カカクコムで新しい企画を実行する場合は、必ずエンジニアや営業など他部署の人間と仕事をします。その際、自分のいいところ、悪いところを素直に認識して、足りないところがあればそれをどのように補完するのか、誰の力を借りればいいのかを明確に認識している人の方が、会社の中で成功しているようです。

企画書が優れていたり言葉を巧みに使ったりというのではなく、不器用でもいいから「本音での情報交流」を恥ずかしがらずにできる人を求めています。ユーザー視点に立つわけですから、都合のいいところ・悪いところを全部分かった上で仕事をするのがこの会社のおもしろさでもあります。

また、われわれは若い会社なので、仕事上での上下関係が年功序列に沿ってはいません。30歳の若い役員の下に40歳の部下がいたりしますが、中間管理職から経営層にまで求められるのは、そうした年齢の逆転を克服しながら部下を育てていける管理能力です。年上の部下に対しても、モチベーションを落とさないようにしながら、ちゃんと欠点、直すべきところを指摘して少なくしていく。それらをどう伝えていくか、というのは新興の企業にとっては悩ましい課題ですが、会社を伸ばしていくのに必要なスキルです。

そのためには、やはり仕事上さまざまな場面での意思疎通が欠かせませんが、ネット企業だからこそやっておかなければならないことだと思います。

本記事は、2008年1月のITmediaエンタープライズに掲載されたものを転載しております。