2008/04/09
編成局デジタルコンテンツセンターED|土屋敏男氏 日本テレビ放送網株式会社

「電波少年」でできなかったことをネットでやる
「あくまで僕は作り手」と話す第2日本テレビの土屋氏は、インターネットのあり方についてビジネスマンとは違うユニークな考えを持っている。ネットビジネスから2ちゃんねるに至るまで多くを語ってくれた。あの番組の話も......。
第2日本テレビは、2005年10月に始まったインターネット向け映像配信サービスだ。この事業の仕掛け人は、かつてテレビ番組「電波少年」を手掛け、"T部長""Tプロデューサー"の呼称で有名な土屋敏男氏である。「第2」とは地上波でできないことをやろうとする「アンチ・テレビ」という意味が込められているという。果たしてネットを使って何を実現できたのか、話を聞いた。
ITmedia まずは、「第2日本テレビ」を立ち上げた背景と理由について教えてください
土屋 ちょうど立ち上げた頃に、ライブドアによるニッポン放送の買収提案や、楽天によるTBSの株式取得が大きな話題となりました。それまでインターネット事業というのはビジネス視点で考えられてきましたが、僕自身はコンテンツの作り手なので、作り手の視点でインターネット事業をやってみたいと思ったのがきっかけです。
ビジネス視点で象徴的なのが、例えばテレビドラマを観ていて「このヒロインが持っているバッグがいいな」と思った時、ネットを使えばその場で買えるようになると堀江さんが言ったり、三木谷さんが「水戸黄門が最初から観られるようになります」と言ったりしたことです。ビジネスマンがテレビとネットの融合を語る時、どうしても便利さを求めます。僕はものの作り手なので、今までテレビではできなかった表現を、ネット上に作り上げてみたかったという思いがあります。
例えば、YouTubeによって映像の流通が完全に国際的になりました。だからといって、新しい表現が生まれてきたかといえば、再生ランキングや検索といったビジネスモデルだけができあがり、表現者がネットでどういうことができるのかについては語られていない。あくまでも僕は作り手側からネットを考えるというスタンスで2年以上やってきました。
リアルタイムと双方向
ITmedia 2年以上ネット番組に携わった中で、気付いたことはありますか?
土屋 そういう意味では、昨年(2007年)手掛けた3つの企画がネット事業に携わる上で大きなエポックメイキングになったと思います。
トヨタにスポンサーになっていただき、8201mのチョ・オユーというネパールと中国にまたがる山に単独登頂する企画をやりました。既に5大陸を単独登頂している"ニートのアルピニスト"と呼ばれる青年が投稿サイトに投稿してきて、チョモランマに挑戦する前段階として8000m級の山を一回単独登頂したいということで、それをリアルタイムドキュメンタリーという形で配信しました。彼が単独登頂するところをスタッフ3名が撮影し現地で簡単な編集をして、ネットでデータを日本に送信してサイトに掲載していきました。テレビだとどうしても週に1回とか、あるいは毎日流すにしても時間に制約があります。数時間の遅れはありますが、ネットだと随時アップデートしていけばよいので、ほぼリアルタイムで配信できます。

- 土屋敏男氏
また、番組ページに視聴者から応援メッセージを寄せてもらいました。登頂の過程で彼がPCでページを観ると応援メッセージが来ている。そのメッセージで彼は元気付けられて、また山を登っていくというわけです。こうした形で視聴者との双方向性が実現できました。
リアルタイムで応援されていることが彼の単独登頂を支えていました。ある時には、サンプラザ中野が作ってくれた応援曲をネットで送り、彼はそれを山頂アタック前に聴いたりもしました。テレビではできない、ネットならではのリアルタイム性と双方向性を生かせたと思っています。
そのほか、ジーンズメーカーのLevi'sと一緒にやった6秒間のWeb CMでは、ネットでしか発掘されないような若いクリエイターからの作品がたくさん集まりました。11~12月に配信した「オキナワ■男■逃げた」というドラマ(NEC提供)では、主人公が約1カ月半の間、ブログをほぼ毎日更新して、そこに寄せられたコメントに心を動かされながらストーリーが作られていくという形を展開しました。これもネットだからできたことだと思います。
テレビだけではできなかったこと、テレビと一緒になるからできることを探し続けていた中で、2007年にリアルタイムかつ双方向なドキュメンタリー、6秒のネットCM、ブログをメインコンテンツとしたドラマの3つを実現しました。それぞれに大きなスポンサーがついたことも含めて、かなりの手ごたえを感じているのが今の心境です。
ITmedia 「電波少年」で猿岩石がヒッチハイクしていた時にはできなかったリアルタイム性や双方向性が、10年経ってネットでできるようになったのは面白いですね。
土屋 まさに、そうしたことが具体的にできるようになった年だったと思います。放送と通信の議論でよく語られていたのは、放送のコンテンツ自体をどうやってネットに載せられるのか、著作権はどうなのだということだけです。すぐに「シナジー」や「Win-Win」などのビジネス用語が出てくる。そうではなくて、僕はネットを使ってこういう新しい楽しみ方や、新しいコンテンツができますよねということを探していく立場だと自覚しています。
テレビは広く、ネットは深く
ITmedia 放送コンテンツをネット上でも配信するサービスについて、総務省や経団連が法改正などをめぐり議論していますが、土屋さんの考えはそれとは異なっていますね
土屋 そういう問題は、ビジネスをやっている人たちとか、著作権をやっている人たちが解決すればいいことであって(笑)。もちろん、見逃した番組がネットで観られたら便利だと思うし、それが今ネットで違法に流出している状態だから、きちんと権利者に対して利益が配分されることが好ましいと思います。ただ僕は、ネットが登場したことで新たにできる楽しみ方、エンタテイメントのあり方を考えていきたいです。昨年放送したドラマ「バンビ~ノ!」のスピンオフ(派生番組)をネットで配信したり、今年になって深夜ドラマを放送直後からネットでそのまま配信するようになったりなど、徐々に取り組みは始まっています。
ITmedia テレビと比べてネットの番組を作る際、企画の立て方などで変わった部分はありますか?
土屋 テレビでできることをネットでやっても仕方ないです。僕がやらなくてはいけないことは、テレビではできないことがスタート地点でした。6秒CMにしても、テレビでは発見されなかったクリエイティビティをネット上だから発見できたわけです。
そもそも、テレビでできることをネットでやるのなら、そのままテレビでやっていますよね。会社の中でわざわざネット事業をやりたいなんて言わないですよ。テレビの視聴者は、視聴率1%で60万人、5%で300万人に相当します。300万人が同時にアクセスするネットコンテンツなんてないです。だから、たくさんの人に観てもらうにはテレビをやっている方が作り手としてはいいわけですよね。ネットの良いところは、深いところまでリーチできる点だと思います。もっと深いところまでリーチできるコンテンツ作りができると信じているから、ネットでものを作っているのです。
トヨタやNECが評価してスポンサードしてくれるというのは、ただたくさんの人が観るからではなく、その人の深いところにまでリーチができるという点を評価してもらったからだと思います。

ITmedia いまやテレビ局がネット放送を行うのは当たり前になりました。その中で御社の強みは?
土屋 圧倒的にいろいろな経験値が高いと思っています。それと、ものの作り手がやっているということなのかなぁ......。第2日本テレビは、いろいろなセクションの出身者が集まって番組を作っています。ビジネスだけを先行せず、あくまでも表現にこだわっていることが強みと言えるかもしれません。
ITmedia NGNや高速光回線などインフラ整備が進んでいますが、作り手側からご意見はありますか?
土屋 自分のPCで動画がスムーズに観られない時に、どこに問題があるのか分からないことがありますよね。PC スペックの問題なのか、通信回線なのか、配信元なのか、どこがボトルネックになっているか分からない。逆にテレビは分かりやすいです。配信元に問題があれば「ただいま(放送事故など)」と表示されるし、映りが悪ければたたくと直ったりした。100%安全ではないものはテレビでは流せません。例えばネットでは、混んでいるところに行くと「落ちる」とか。テレビの技術からいうとありえないですよね。
現在、「デジタルの根性」という深夜番組をセカンドライフ上でもやっています。僕もアバターで千原ジュニアや馬場典子と出ていますが、セカンドライフもPC自体のスペックが高くないとできない。通信回線も当然速くなくてはならないし、そこに100人集まってしまうと「落ちる」みたいな状況になってしまいます。ただ、ネットでは「こういうこともある」という風に皆考えるので、テレビとはユーザー側のリテラシーがまったく違います。
プロデューサーのあるべき姿
ITmedia ネットのサービスやコンテンツで注目しているものはありますか?
土屋 追いかけ切れないですね。僕らが認めちゃいけないんだけど、最近だと「ニコニコ動画」や「YouTube」みたいなものですね。2ちゃんねるは怖くていまだに観たことがないです。よくブログが炎上するとかいうじゃないですか。あんなの絶対に自分がそうなったらと考えると無理だと思う。1つの悪口でめちゃめちゃへこみますからね。つい自分の名前を検索してみたくなりますが、どんなことが書かれているか、何件あるかというだけで怖いです。ブロガーの人たちと話をする機会がありますが、彼らは「炎上してなんぼですよ」という。炎上はいいことなんだというくらい、言葉やバッシングに対する強さを持っています。そういう耐性をネットの作り手・送り手は持たなくてはいけないと思いますが、自分には難しいです。
ただし、今ではほとんどの有名人がブログで発信していて、少し前とは様変わりしています。その時代の中で送り手のあるべき姿というものも変わっていくと思います。送り手が身につけなければいけない能力というものもあるはずです。
ITmedia 最近はWebプロデューサーという職種も登場してきています。最後に、ご自身のプロデューサー論を教えてください
土屋 Webプロデューサーって、技術とビジネスが分かる人ということだけど、もう1つ、クリエイターの気持ちを理解できないとプロデューサーとはいわないです。クリエイターとビジネスマンの架け橋がプロデューサーであるという考え方をしないといけない。Webプロデューサーの人たちは、「クリエイティブなんてネット上に転がってるんだ」という考え方をしてしまいがちです。そうではなくて、きちんとクリエイターなりエンターテイナーなり、タレントといわれる人たちも含めて、それを見つけて育てないとクリエイティビティは生まれてきません。発掘して育てることが大切で、それをプロデューサーがやらなくてはなりません。Webの世界はそれが軽視されすぎている気がする。
Webの世界でもコンテンツ自体がすごく大事になってきます。クリエイティビティは言い換えると「狂気」に近いものです。それを認めてあげないと面白いものはできません。例えば「電波少年」で、猿岩石という無名の芸人がヒッチハイクで香港からロンドンまで行くという企画を会議で出した時、作家含めてスタッフ全員が「何をこいつは言っているんだ」という反応をしました。実際に番組がスタートした時、多くの視聴者から「そんなものをやらないで松村のアポなし(アポなしで永田町の総裁のいすに座るなどの企画)を見せてくれ」という電話が山ほどきました。でも、何ヶ月かやって実は面白いということになり、半年後のロンドンゴールの時には、「松村のアポなしより、猿岩石が見たい」ということになりました。

Webプロデューサーになりたいという人は、ビジネスや技術のことだけ分かればいいと思っているかもしれませんが、実はその先にクリエイターという非常に繊細なクリエイティビティがあって、それをつなぐ役目だと考えないと、もう通用しない時代がきていると思いますよね。
本記事は、2008年2月のITmediaエンタープライズに掲載されたものを転載しております。