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2008/01/30

株式会社ユニクロ マーケティング2 部 新メディア情報発信チーム リーダー|勝部健太郎氏 ユニクロの新プロモーション戦略

An opportunity~Now

新規顧客開拓から、グローバル、中長期的視点へ。変化したサイトの役割

2006 年8月、キャンペーンサイト「UNIQLO MIX」開設。2007 年6月「UNIQLOCK」を開設し、ブログパーツを公開。そして10 月には人材採用サイト「UNIQLO JUMP」をオープン——。この1年半、ユニクロは積極的にWeb を利用したプロモーション活動を行っている。ダンスと音楽を中心に据えたファッショナブルなホームページや、自社サイトオープン前に動画投稿サイトYouTube や写真投稿サイトFlickr、ポータルサイトはてな を活用して情報発信をするスタイルなどによって、各界から注目を浴びている。次々と「新たな一手」を繰り出し続けるこの一連のプロモーション戦略は、最初から長期的な視点によって構築されたものだったのだろうか。この問いに勝部氏は「一定の仮説・戦略を持ちながらも、ユーザーの反応を見ながら徐々にWeb 情報発信の枠組みを変えていきました」と答えた。

「去年の8月に新メディア情報発信チームを立ち上げた際にベースとしてあったのは会社全体として全社プロモーションを変えよう、ということでした。ここ数年、リピートのお客様は多く来てくださるのですが、新規のお客様があまりとれない状況が続いていた。そこで、新規のお客様、特に20 代前半の集客を狙った商品展開とプロモーションをしていこうと考えたんです」

そこでスキニージーンズなどの新商品を投入。また季節ごとに新商品を含んだコーディネートを提案するキャンペーンサイト「UNIQLO MIX」を開設。新規顧客の獲得と、売り上げ増を狙った。このサイトが好評なことを受けて、グローバル視点でWebプロモーションを加速。

日本を含む世界5カ国に店舗を構えるユニクロには世界共通のブランドイメージ構築が必要という考えのもと「UNIQLOCK」の展開や世界各国のWebサイトで共通フォーマットで統合した。

「世界中の店舗に同じイメージを持たせること、世界共通体験を与えることは、短期間では難しいことです。日本だけでも700 以上の店舗があるので、それをすべて改装してイメージをそろえようと思ったら、莫大なコストが掛かる。しかし、Web上で世界共通イメージを構築することは比較的低コスト・短期間で可能です」

次には、もっと長い目で見て会社の発展につながることは何かを考えた。それは、やはり「人材」。よい人材を採用し中長期的な視点で会社の収益に貢献する仕組みを構築したいと考え、「UNIQLO JUMP」をオープンした。

「新規顧客開拓と売り上げ増、グローバル視点、中長期的視点と、Web の役割は徐々に変わってきたし、ユーザーの反応を見ながら変えてきました。しかし、有効なメディアを作る、お客様に情報発信するチャネルを作るという視点がぶれることはありませんでした。だから、アウトプットとしての軸がとれているんだと思う」と語る一方で、勝部氏は「しかし、Web でのプロモーションを始めた時点では、正直、どこまでいけるのか分からなかった」とも言う。

素早く方向修正できるのがWeb の特性。ユーザーの反応を見て次の一手を考える

www.uniqlo.com/jump スクリーンショット
www.uniqlo.com/jump

「話題流通で大切なのはPR」という勝部氏は、Web 上でさまざまな仕掛けをしてきた。たとえば「UNIQLOCK」を公開するときには、まず「UNIQLOCK」という言葉を流通させるという目的でリリースを配信。その後、オーディションの様子を公開したが、その正体がブログパーツであることは、サイトオープンまで伏せられていた。「UNIQLO JUMP」も同じ。「ユニクロがまた何か新しいサイトをオープンするらしい」という情報が流れてから、それが人材採用サイトであることが分かるまで、時差がある。

「正体を明かさない、いわゆるティーザー広告の手法。狙ってやりました。何が起こるのか分からないザワザワした状態の後にリリースした方が、効き目がある」情報を流す場所も計算ずくだ。

www.uniqlock.jp スクリーンショット
www.uniqlock.jp

「ブログなどのCGM は連鎖することで大きな効果を生みます。ですので、できるだけ多くのブログに 『 UNIQLOCK 』 のブログパーツを貼ってもらったり、話題として取り上げてもらう必要がある。では、どんなところからブロガーはネタを拾っているかというと、ニュースサイトであったり、アルファブロガーと呼ばれる有力ブロガーのブログだったりと、意外とソースは少ないんですよ。そこを狙って情報を投入しました」。その作戦が当たって、現在、「UNIQLOCK」は200 ヵ国以上で、5000 万回以上見られている。

適切な場所に、適切なタイミングで情報を投げ込むことで、低コストで大きな宣伝効果を上げることができるWeb の世界。しかしそこには一歩間違えるとネガティブ情報が瞬く間に広まる危険性も潜んでいる。リスク管理に関しては、どのように考えているのだろうか。

「Web にはすぐに方向修正できるよさがあります。コンテンツをローンチした後もユーザーの様子を常に観察し、不都合があれば修正する。また、反応を見て次の一手を考えていく。常にアップデートしていくことが重要です。永遠のキャンペーンみたいなものですね。ここがWeb が他のメディアと決定的に違う点だと思います」

The present and the future

Web は爆発的な可能性のあるメディア。もっと先進的な取り組みで価値を高めていきたい

勝部氏は外資系自動車メーカーや銀行でもマーケティングの仕事をしていた。そこでテレビや新聞、雑誌などマスメディアを使ったプロモーションは十分に経験したが、Web だけは手掛けたことがなかった。また、テクノロジーやインフラの変化に伴って、ユーザーの行動が変わってきていることを感じてもいた。実際銀行でもWeb チームが少人数で高い収益を生み出していた。だから「Web を使ったマーケティングをやってみたい。一般消費財でWeb の可能性を追求してみたい」という思いが強くなり、ユニクロへの転身を決意したという。

「古くからのマーケティング理論では、購買に結び付くユーザーの行動を『注意→関心→欲求→記憶→購買行動』と分析していますが、Web が普及したことで『関心』の後に『サーチ』が、『購買行動』の後に『共有』が加わったといわれています。気になったものをWeb で検索、購買後の感想をWeb を通じて発信し、皆で共有する。こういう実態があるわけです。マーケティング担当は、こうしたユーザーの変化を正しく理解しておく必要があると思うのですが、まだ分かっていない人も意外と多くマーケティングの中ではWeb が軽く見られている。だから過小評価されているWeb から誰もやったことのないやり方で先進の情報を発信し、Web の情報発信をマス化したいという思いが強いですね」

勝部氏は、発信する内容にも深くコミットする。国内外の広告関係のサイトや雑誌に目を通す、ビジネス、小説など多ジャンルの本を読むなどして、常に自分の中に情報を蓄え、クリエイターと共にプロモーション企画やサイトの作り込みを行っていく。

「ユニクロのプロモーションには多くの優秀なクリエイターにかかわっていただいているのですが、それでも“お任せ”ではいけないと思う。課題解決のためにはどうしたらよいか、お互いが当事者意識を持ちながらディスカッションを繰り返し、ユニークな表現を求めていく。ギリギリの“際(きわ)”までやらなければ、何もやらないのと一緒ですからね」

その姿勢は、オンラインショップの売り上げ・前年度比119%、「『UNIQLO JUMP』を見て、みんな元気で楽しそうな会社だから入りたいと思った」という転職希望者がやってくる──。そんな成果につながっている。

マスメディア、店舗、商品、スタッフ、そしてWeb。すべてをつなげたい

「Web の世界には、優秀で仕事に対してしっかりコミットする人が多い。Web クリエイターと一緒に、すごいことやろうぜ、と盛り上がっていくのは面白いし、自らの手で世の中を変えていく楽しさがある」という一方、「紙や電波という媒体はなくならないと思う」と、勝部氏は言う。

「紙や電波といった媒体とインターネットが併存し、それぞれの媒体を通して伝わる内容がソートされ、それぞれの媒体特徴がハッキリしていく。その一方で、メディアの際が溶けていくのではないか」

では、その中で、ユニクロのプロモーションはどこを目指すのか?

「この1年ちょっとの動きを通して、ユニクロはWeb の中では世界的に認知され、高い評価を受けることができました。でも、このまま同じ戦略で進んだら、もうアッと驚くことはできないと思う」

そこで考えた次の一手が、Web の枠組みを変えること。「Web は、目的を持ってそこにやってくる人にはリーチするのだけれど、そうじゃない人には届かないメディアです。今後は、目的を持たない人にもリーチする、そんなアプローチを考えていきたいと思っています。そのためにはWeb の枠組みを変える必要があるし、変えていきたいと思う。“目的に対するアプローチの1 つ”として、Web を位置付けたい」

「UNIQLO JUMP」は、スタッフもメディアだという発想のもとで作られている。顧客がユニクロらしさを感じるのは、商品であり、店舗であり、スタッフだという考え方。商品、スタッフ、店舗、すべてがメディアと考えると、ユニクロには大きなポテンシャルがある。世界5カ国で750 以上の店舗、2万人以上のスタッフを持ち、1週間で4000 万枚以上のチラシが配られる。それらの自社メディアを使い切ること。また、テレビや新聞、雑誌、書籍というマスメディアやイベント。そして、Web。「そのすべてをつなげたプロモーションをしてみたい」というのが勝部氏の目標だ。

「さまざまなメディアがすべてつながったときに何が起こるのか。僕にも分かりません。予測不能な面白さがある。でも、本当にできたらと思うと、ちょっとゾクッとしますね(笑)」

勝部健太郎
株式会社ユニクロ マーケティング2 部 新メディア情報発信チーム リーダー
1974 年生まれ。1998 年、慶應義塾大学経済学部卒、銀行に入行。外資系自動車メーカー、銀行勤務を経て、2006 年8 月より現職。