2008/01/30
ワクワク経済研究所 代表|保田 隆明 「クラウドソーシング」=ネットから生まれた群衆パワーの結集
社会を変える新しい価値は理念をもった企業から発信される

独立されたきっかけは何だったのでしょうか。
保田氏:
「ここで働きたい」と思わせてくれる、そんな理念を持った企業が見当たらない。ならば、作るしかないと思ったのです。企業として何が一番大切かを聞かれると、それは企業理念だと思うのです。同じ企業内で働く者同士で、社会にどのような価値を発信していきたいのかという、理念の共鳴みたいなものも不可欠なはずです。
外資系証券会社でM&A、資金調達等のアドバイザリーを行うなかで、相手先の大企業の人は確かに優秀だけど、自社の内部ばかりを見て仕事をしていると思うようになりました。こうした企業では、社会に対して新しい価値を発信できないと感じたのです。
大企業のなかでは自分の価値観が徐々に削り取られていくということが往々にしてあります。だけど、若いうちはある程度、自分の価値観を通すことも重要なんじゃないか。歳をとるほど妥協しなくてはならないのであれば、その流れに少し抵抗してみようということで、そのための最善の選択肢が起業だったというわけです。
独立した当初立ち上げられたのは、SNS サイトの運営会社でした。金融業界からネット業界に転身し起業することに不安はありませんでしたか。
保田氏:
大事にしたい理念は、世界観を自分たちの手で作り、社会に何らかの新しい価値を提供することです。「起企業」というよりは「起事業」に関心があったと言えるかもしれません。ネットの世界では、そうした新サービス設立による新しい価値の提供が、資本と手間隙をかけず容易に実現することができます。
SNS の会社は結果としてたたみましたが、今度は会社という形でなく、独立した個人が集まって、何らかのプロジェクトを立ち上げられないかと考えました。そうした新しいワークスタイルの形を具現化したのが、「わくわくオープンラボ」なのです。
独立した個人の集合体が生んだ「ハナウタードットコム」
従来日本では見られなかったワークスタイルだと思いますが、どのような仕組みでプロジェクトを立ち上げ、運営されているのですか。
保田氏:
ネットという1つの括りのなかで、個人の寄せ集めでプロジェクトを立ち上げる。その働き方に共鳴した人が、SNSなどを介して集まってきます。mixi のコミュニティには、230 ~ 240 人ほどの登録者がいますが、ある人はネットベンチャーの社長、ある人はデザイナーというように、本業も興味の方向もバラバラです。その対話のなかで生まれたプロジェクトに何か1つ、手を挙げて参加する。参加者はメーリングリストでのやりとりのほか、月1 回のブレインストーミングで内容を詰めていくわけです。資金は原則、参加者全員の持ち出しで、プロジェクトから収益が発生した場合は働きに応じて山分けします。
「わくわくオープンラボ」は、新サービスの創造の場であるのと同時に、こういう働き方があるのだということを世の中に提唱する、一種のショーケースでもあるのです。
「わくわくオープンラボ」のように、会社や組織という形態ではなく、さまざまな能力を持った個人が共同でプロジェクトを行う協同形態は、近年、米国で「クラウドソーシング」と呼ばれ、注目を集めています。
保田氏:
ネットならば、新しいプロジェクトをどんどん立ち上げられる。「面白そうだからやってみよう」と始めた取り組みが、結果的に米国のクラウドソーシングと似ていたんです(笑)。 独立したクリエイターやインディペンデントコントラクター(独立請負事業者)が多数いる米国と日本とでは、労働市場に大きな違いがあります。ですが、日本人の労働に対する概念が変わりつつあるいま、「クラウドソーシング」という考え方が上陸したのはよいタイミングであったと感じています。
「わくわくオープンラボ」のサービス第1 弾が、ハナウタードットコムでした。鼻歌をマイク付きPCに吹き込み、Skype(インターネット電話のソフトウェア)を通じてアップロードすると、他の人が曲名を回答してくれるこのシステムは、どんな発想から生まれたのですか。
保田氏:
発表する前に、類似のサービス(「midomi(ミドミ)」)が登場していましたが、音声識別ではなく人力検索で回答する点で異なっています。
クラウドソーシングでは音声識別による検索が難しかったという技術面の問題もありますが、それ以上に人対人のやり取りのなかで、新しいコミュニケーションが生まれるという効果を期待しています。
広告掲載等による収益は考えていませんが、企業と何らかの形でパートナーを組むことで、シナジー効果も期待できます。たとえばカラオケ機器を提供して、曲を検索させるなどといった可能性は十分にあるでしょう。
クラウドソーシングは膨大な機会損失を回避できる!
ハナウタードットコムは、クラウドソーシングによる初めてのサービスとしても、注目を集めています。
保田氏:
音声を利用したこのシステムは、たとえば俳句やものまねなどにも応用できるかもしれません。そうした横の広がりを今後も拡充させたい一方で、クラウドソーシングがある1つの果実を生み出したという意義が大きかったと思うのです。初めのアイデア出しの最中はすごく熱量があるけれども、いざシステムを作ろうという段階になると徐々に醒めてしまう。ハナウターのプロジェクトも最終的に10 名程度に集約されましたが、それでも形を残せた。今後は、こうしたプロジェクトが複数同時進行していくのが理想形ですね。
企業のなかはできないような、新しいプロジェクトが生まれてくる可能性を感じますね。
- 月1回のMTG後、懇親会を開いてます
保田氏:
一種の「課外活動」とも言えるクラウドソーシングならば、会社の外でもマルチタレントを生かす事ができます。もちろんサービスを公開する以上、市場のクオリティチェックには晒されますが、プロジェクトを作り上げること自体、非常に刺激的なことではないでしょうか。たとえば、月1回のブレインストーミングでは、実に多くの情報が提示されます。これも、全く違う背景の人が集まるクラウドソーシングならではの利点と言えるでしょう。個人ではどうしても限界があるから、そこに緩やかなつながりを持たせることでシナジーを生み出していく。それがクラウドソーシングという新しいワークスタイルなのです。
- 保田 隆明(ほうだ・たかあき)
- リーマン・ブラザーズ証券、UBS 証券を経て独立し、04 年にSNS の運営を行うLife On 株式会社を設立。現在、独立系シンクタンク・ワクワク経済研究所代表。『やわらか系エコノミスト』として経済・金融分野の執筆や解説などを幅広く展開する。また、会社・組織にとらわれない集団「わくわくオープンラボ」を主宰し、さまざまなプロジェクトを共同で企画。07 年10月、鼻歌によるソーシャルコミュニティサイト「Hanauter.com(ハナウタードットコム:http://hanauter.com/)」を開設した。